第124回芥川賞候補に上った著者のデビュー作。
「霊泉」に救いを求めて長逗留する久美子の死を通して、禅僧「玄山」が死に行く人の心の移ろいを描く。
悲壮感無く、あっさりと死を描き、死の恐怖を与えないようにしているが、これは著者の死生観なのであろう。
霧晴れて 水の舳先に 海近し
という、登場人物に詠ませた句にもそれが表れているように思う。
このように心穏やかに死を迎えられる人はどれ位いるのであろうか。

水の舳先